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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)2343号 判決

控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

平山正和

山名邦彦

村田浩治

峯本耕治

若林学

被控訴人

大阪府

右代表者知事

山田勇

右訴訟代理人弁護士

前田利明

右指定代理人

津張八郎

外三名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、金七万六五七二円及びこれに対する平成二年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

三  この判決は、第一項の1及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金一二三万七五七二円及びこれに対する平成二年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

次に付加、訂正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし原判決二枚目表一〇行目の「国家賠償法一条一項」の次に「、民法七一五条等」を加え、同裏九行目の「乙一の1」を「弁論の全趣旨」と改め、同末行目の「少年補導員」の次に「(以下、単に「補導員」ともいう。)」を、同三枚目表一〇行目の「栗野」の次に「(いずれも私服)」をそれぞれ加える。

第三  証拠

〈証拠略〉

第四  争点に対する判断

当裁判所の認定判断は、原判決の「第三 判断」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。

一  原判決八枚目表一行目の「1及び2」と「一三、一五」をそれぞれ「1、2」と「一三ないし一五」と改め、同二行目の「甲一七、」の次に「一八の1、一九の1、2、」を、同三行目の「馬場、」の次に「國武学、義国捷彦、甲野花子」を、「原告本人」の次に「(原審及び当審、特に記載のない限り以下同じ。)」をそれぞれ加える。

二  原判決八枚目表八行目の「原告」から同裏一行目の「ながら」までを「控訴人が大声で「一八じゃ、文句あるのか」などと言ってきたため、大声を出さなくても分かると控訴人をたしなめた上、免許証の提示を求めたところ、控訴人が椅子から立ち上がり、「免許証は車の中じゃ、取ってこい言うんか」「何で持って来なあかんねん」などと大声で食ってかかりながら」と改め、同一〇行目の「主張し、」の次に「甲一、三、四、一八の1、」を加え、同九枚目表二行目の(甲一五)を(右供述記載の供述調書の存在は甲一五の付審判請求事件抗告審決定から窺われる。)と、同四行目の「神田」から同裏二行目末尾までを「甲一五からは、付審判請求事件の抗告審は、右神田の供述記載の信用性を否定していないことが窺われないではないが、その点を考慮に入れても、本件においては、右供述調書は提出されておらず、したがって、その具体的な目撃状況や控訴人が立ち上がる前後の経緯等の供述内容の詳細をつまびらかにしない以上(この点に関する供述が控訴人においてすら変遷していることは、次にみるとおりである。)、右供述調書の存在等によって、直ちに、控訴人が椅子から立ち上がった経緯等が控訴人主張のとおりであったものと断ずることはできない。また、控訴人の検察官に対する供述調書(平成三年二月一四日付、甲一八の1)中には、立ち上がった後に暴行を受けた旨の、被控訴人主張の事実経過に沿う部分があるが、その後、控訴人は、付審判請求事件における事実取調(乙一の1)において、椅子に座っている時に暴行を受けた旨その供述内容を変更し、本件の本人尋問においても同様の供述を繰り返している。しかして、右供述調書には、単に椅子から立ち上がった時期のみならず、椅子から立ち上がることとなった理由について、「そのころまでは丙川さんは私の左斜め後ろに立っていて、私は首を左に向け、椅子に座ったままの姿勢でしたから首が痛いし話しづらいから、私もその場所に立ち上がりました。これは私が自分の意図で立ち上がったものであり、丙川さんから立てと命令されたわけでもなかったし体をつかまれて強引に立たされたというものでもありませんでした。」との具体的かつ詳細な供述記載があり、他方、本件の本人尋問において控訴人が供述しているのは、要するに、椅子に座っている時に懐中電灯で顎を小突かれたため憤慨して立ち上がったというものであるから、両者は、単に時期の点の相違にとどまらず、椅子から立ち上がるに至った経緯等の点でも全くその認識を異にするものであるのに、控訴人は、本件の本人尋問においても、そのように供述をした記憶はないなどと述べるにとどまり、その変遷の理由について必ずしも首肯し得る説明をしていない。更に、甲一(甲斐の陳述書)、三(勝井の陳述書)、四(濱﨑の陳述書)は、後記3(四)でみるとおり、他人からの伝聞等が多分に含まれていることが明らかで、必ずしも実際の目撃内容が記載されている保障はないし、同人らの証言にしても、立ち上がった時期等の点で前記控訴人の供述調書の記載内容と齟齬している上、控訴人の顎に懐中電灯が接触したのは、いずれにせよ一瞬の出来事であったと思われるのに、この点を全員が詳しく目撃したとしている点にもかえって疑問が残らないではないこと、」とそれぞれ改め、同六行目の「いずれも」の次に「、にわかにこれを」を加える。

三  原判決九枚目裏九行目の「丙川は、」から同一〇行目末尾までを「丙川は、小突いてない旨繰り返し弁明するにとどまっていた。」と改め、同一〇枚目表六行目から七行目にかけての「連れて」の次に「本件パチンコ店の所在するフロアの一階上のフロアにある光明池駅改札口前経由の経路により」を加え、同裏八行目の「乙山」から同一〇行目末尾までを「補導員らも、控訴人らを一旦店外に出そうと試みたり、控訴人に加勢しようとする少年らを制止するなどした。そのさなか、控訴人と丙川の横あいから、突然、乙山が「ええ加減にせい」といいながら、右手に所持した懐中電灯(乙四)を斜めに振りあげてこれを振りおろし、控訴人の左頬を一回殴打した。」と、同末行目の「そのうち、」を「そして、なお、もみあいが続くうち、」と、同一一枚目表二行目の「一部」から同行目末尾までを「右ポケット付近が一部破損した状態になっていた。」とそれぞれ改める。

四  原判決一一枚目裏五行目の「出たところ、栗野及びその」を「出、同店前通路(泉北光明池アクトビル内通路)で、なおも丙川に対し、大声で、同店内での暴行を抗議したり、破損した着衣の弁償や謝罪を要求していたところ、先に光明池駅前派出所まで丁田を連れて行った栗野から」と、同行目から六行目にかけての「光明池駅前派出所」を「國武学巡査ら同派出所」と、同九行目の「ともに、」を「ともに、本件パチンコ店の所在するフロアの経路を通って」とそれぞれ改め、同一二枚目表六行目から七行目にかけての「拒否された」の次に「(ただし、控訴人はこの点を否定している。)」を加え、同一〇行目の「圧痛」を「圧痛と発赤等」と改め、同末行目の「外用薬」の次に「(経皮的消炎鎮痛外用剤及び消炎鎮痛剤軟膏)」を、同一三枚目表五行目の「形になった」、」の次に「「お互いにまあ手ぇ出しているわけですわ」、」をそれぞれ加え、九行目から一〇行目にかけての「結果的に殴ったことになったものである旨」を「殴ったのは結果的な何でして、それはいいなんて私言いませんけどもね」等と」と、同行目の「殴っている」から同末行目の「とか」までを「殴っている、素手じゃなくって」「たまたまそれはね」「たまたまでもね、懐中電灯で殴るって」「たまたま、それはもう仕事の為に持ってたもんですよ」とのやり取りの上、」とそれぞれ改める。

五  原判決一三枚目裏九行目から同一四枚目裏末行目までを次のとおり改める。

「ところで、前記2(二)の認定事実に対して、被控訴人は、乙山が控訴人を懐中電灯で殴打した事実はない旨主張し、乙山も、その証人尋問において右事実を否定している。

しかしながら、乙山による殴打の事実は、当初から控訴人の一貫して述べているところであり、甲斐も、甲一及びその証人尋問において、その目撃状況を詳細に供述しており、その供述内容も自然であって、格別の矛盾点も見出せない。のみならず、顔面の受傷は、その部位に照らし、他の機会には生じにくいと考えられる上、前記認定のとおり、控訴人は、その日のうちに病院に赴き、受診しているところ、その際のカルテ(甲一〇の1)にも、控訴人からの聴取内容として、「左頬部、頭部を懐中電灯で殴られた《(補導員に)警察に行ったら診断書をとるようにいわれた》」と記載されているし、病院の医師も、補導員に殴られたという珍しい発言であるので記憶をしていることと、左頬部の受傷程度は、前記認定の殴打の状況と矛盾しない旨回答している(甲一九の1、2)。更に、前記丙川と控訴人の母親との電話によるやり取り(検証、甲一四)をみても、その会話は、全体としては、控訴人の母親が補導員の謝罪を要求するのに対し、丙川は、話合いによる穏便な解決を図るため、自らの意見や主張を極力抑制して発言していることが窺われるとはいえ、その中でも、少なくとも、丙川が、懐中電灯による殴打行為があったこと及びそれが補導員によるものであることを認めた上、これを前提として会話しているものであることは、その内容に照らして明白というべきである。そして、そうであればこそ、前記認定のとおり、本件事件の当日、丙川と栗野が控訴人方に控訴人を送って行き、その両親に対する事情説明に及んだものと理解されるところであるから、右に反する丙川の証言もこれを採用できない。

そうであれば、控訴人主張の殴打行為を否定する乙山の証言はたやすく採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。」

六  原判決一五枚目表一行目の「原告は、」の次に、「右乙山による懐中電灯による殴打後も、乙山を含む複数の少年補導員から殴られる等し、また、」を、同六行目の「しかしながら、」の次に「甲斐は、甲一において、乙山による懐中電灯による殴打後も補導員らが控訴人を拳骨で殴り、控訴人を椅子に押し倒し押え付けた旨記載しながら、その証人尋問においては、実際は殴ったところは見ていないと供述しており、また、」をそれぞれ加え、同裏四行目から五行目にかけての「、原告」から同一〇行目末尾までを「(なお、控訴人主張のとおりであるとすると、控訴人が説明する倒れた際の姿勢と椅子との位置関係に照らし、通常は右後頭部の打撲となる筈であって、左側後頭部圧痛との診断とは必ずしも符合しないし、控訴人が事件当日受診した際のカルテには、既に認定したように、懐中電灯で殴られた箇所として頭部も挙げられていたものである。)、少年補導員らの暴行に関する控訴人の供述(甲一八の1の供述記載を含む。)は、要するに、乙山から懐中電灯で殴られたのに引き続いて、乙山らから数発手拳で殴られたため(殴ったのが乙山一人であったのか、他の補導員も入っていたのかは判然としない。)、その衝撃で床にひざまづきバケツをひっくり返してしまったが、更に乙山に胸ぐらを掴まれて引きずり起こされ、バランスを崩して仰向けに椅子に倒れ込んだなどというものであるが、引き続いて乙山が手拳で殴ったとする点は、前記認定のとおり、乙山は右手に懐中電灯を所持していたことからして、連続した動作として不自然の感が否めないし、更に、床にひざまづいてバケツをひっくり返した後、乙山に引きずり起こされたとする点も、甲二ないし四(丁田、勝井、濱﨑の各陳述書)では、時期の点は異なるものの、控訴人が足をとられて転びバケツをひっくり返したが「すぐに立ち上がった」とされていること等に照らし、以上の暴行経緯に関する控訴人の供述はにわかにこれを採用しがたく、また、着衣の破損の点についても、その破損の発生したことは前記認定のとおりであるが、控訴人(甲一八の1の供述を含む。)は、乙山に引きずり起こされるなどした際に破られたものと思うなどと供述しているものの、以上のように、右乙山の行為に関する控訴人の供述自体がにわかに採用しがたいものである以上、右控訴人の供述のみに基づいて、着衣を乙山が破損したものと断ずることはできず、他に乙山及び他の補導員らがこれを破損したものと認めるに足りる的確な証拠もない(なお、検甲一一の1ないし5、一三の1ないし6のシャツが、仮に控訴人主張のとおり、当時控訴人が着用していたシャツであるとしても、そのことから直ちに右の点が認定できるものでないことはいうまでもない。)。そして、他に、前記控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。」と改める。

七  原判決一五枚目裏末行目から同一七枚目裏一行目までを次のとおり改める。

「次に、前記3(一)の認定事実に対して、控訴人は、控訴人が本件パチンコ店から出た後、同店前通路で、いきなり栗野が控訴人の腕を後ろ手に締め上げ、そのままの状態で約五〇メートル連行した旨主張し、これに沿う証拠(甲一、五、一八の1、甲斐、濱﨑、控訴人本人)も存在する。

しかしながら、右控訴人の主張に沿う証拠は、いずれも控訴人らが本件パチンコ店から光明池駅前派出所に向けて出発する時点で、同店前通路付近に栗野がいたことを前提とするものであるところ、栗野は、前記認定のとおり、乙山が懐中電灯で控訴人を殴打する以前に、丁田を光明池駅前派出所まで連れて行ったものであるが、証拠(甲二、丁田、栗野、國武学)によれば、その後、栗野は、同派出所勤務の制服警察官二名(國武巡査及び植松巡査部長)に応援を要請し、これに応じて両名が本件パチンコ店に急行した後も、しばらくは、同派出所内で、丁田に対し警察手帳を示したり、同人の行動を説諭したりしていたことが明らかであり、他方、右國武ら警察官二名が同店に到着した後、控訴人らが光明池駅前派出所に向けて出発するまでにさほどの時間がかかったことを示すような証拠もないから、右出発までに栗野が同店前通路付近に戻ってきていたものとは考えにくい(なお、甲一三中には、防犯委員の馬場の供述として、出発の際に栗野と二名の制服警官が来て全員で派出所に行った旨の記載があるが(右二名の制服警察官が國武らを指すことは、続いて右警察官の一人が控訴人らに「何や、お前らか」と言った旨の記載があることからも明らかである。)、右記載はごく抽象的で、その際の栗野の具体的な言動にも全く触れるところがないし、前記のとおり栗野が國武らと同行した事実はないのに、その同行を前提としている点でも明らかに事実に反するもので、馬場自身も、その後の付審判事件における事実調・甲一七及び本件の証人尋問において、勘違いによるものとしてこれを訂正しているところである。)。

そして、栗野は、爾後の行動につき、右のとおり丁田を説諭している間に、他の派出所勤務の警察官二名(中里及び渡辺巡査、甲二〇)の立ち寄りがあったので、同人らにも応援を要請した上、自らも、丁田を連れてきた際の光明池駅改札口前経由の経路で本件パチンコ店まで戻ったが、控訴人らは既に同店付近にいなかったため、行き違いになったものと考え、往路と同一の経路で同派出所まで引き返した旨証言しているところ、右の栗野証言に関し、控訴人は、右中里巡査作成の「少年補導に対する応援状況について」と題する報告書(甲二〇)には、本件パチンコ店への行き帰りとも同人らと栗野とが同行した旨の記載があるのに、栗野の証言する経路は、往路、帰路とも右報告書に記載された経路とは一致していない点を指摘して、右栗野証言は信用しがたい旨主張しているが、栗野も、往路帰路とも、中里ら警察官二名より一歩遅れて行動したため、同人らと全く同一の経路を用いたものではない旨証言していること、甲二〇は中里ら警察官二名の職務執行状況の報告書であるから、これに記載された経路は同人らのとった経路を示すにすぎず、栗野自身の経路等に関しては、「栗野巡査部長と共に」と記載する形での概括的記述にとどめたものとも考えられること、また、いずれにせよ、往路については、光明池駅改札口のあるフロアを通って一階下の本件パチンコ店のあるフロアに下りたとする点で両者は一致していること(なお、控訴人らが光明池駅前派出所に行くのに本件パチンコ店の所在するフロアにある経路を用いたことは前記認定のとおりである。)等に照らすと、控訴人指摘の不一致の点を捉えて、直ちに右栗野の証言を虚偽であると断ずることはできず、他に同証言の内容を疑うべき格別の事情を認めるに足りる証拠は見出せない。

そうであれば、控訴人らとは行き違いになった旨の栗野証言を一概に排斥することはできず、したがって、前記控訴人の主張に沿う証拠は、この点で既にたやすく採用することができないものというべきであるが、右の点を措いても、証人濱﨑は、甲四の自らの陳述書の中では、「控訴人は制服警察官に連れられて行った」旨の、被控訴人の主張に沿う供述をしていること、前記認定事実によれば、控訴人らが光明池駅前派出所に向かう際は、既に同店内でのもみ合いが終わった後で、控訴人の丙川に対する抗議がなおも続けられていたとはいえ、控訴人が同派出所に行くのを特に忌避していた形跡はなく、むしろ同派出所で丙川らとの争いに決着をつけるべく意気込んでいたことが窺われるから、そのような時点で、しかも既に制服警察官も来ているにもかかわらず、敢えて栗野が控訴人を後ろ手にとって逮捕、連行する必要性は乏しく、この点に関する控訴人らの供述は不自然といわざるを得ないこと、乙一の1(付審判事件の原審決定)によれば、第三者の目撃証人ともいうべき本件パチンコ店店員の供述中にも栗野による控訴人の逮捕、連行行為に言及がないことが窺われること等に照らせば、前記控訴人の主張に沿う証拠は、これらの点においても疑問の存するところであって、にわかにこれを採用することができないものといわざるを得ない。

そうすると、栗野の逮捕、連行行為に関する控訴人の主張事実はこれを認めることができず、また、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

八  原判決一七枚目裏二行目の「したがって」から同三行目末尾までを「以上によれば、泉北警察署長の委嘱を受けた少年補導員である乙山は、同警察署防犯課勤務の警察官とともに、少年補導の実施中に、所携の懐中電灯によって控訴人の左顔面を殴打し、左顔面打撲の傷害を負わせたものであるから(その余の控訴人主張の暴行等の事実はいずれも認められない。)、被控訴人は、国家賠償法一条一項に基づき、右乙山の違法行為により控訴人の被った損害を賠償すべき義務があるというべきところ、右乙山の違法行為による損害額としては、右傷害の治療費一万六五七二円(甲八)のほか、前記認定の事件の経緯(殊に、乙山の暴行はそれまでの控訴人の言動によって誘発されたもので、その意味で控訴人にも問題がなかったとはいえないこと)、暴行の態様、傷害の程度、治療日数等の諸般の事情を考慮して慰藉料三万円、また、本件訴訟の認容額、難易等の事情を考慮して弁護士費用三万円の限度でこれを認めるのが相当である(控訴人は、他にも、休業損害を請求しているが、前記認定の傷害程度に照らして、それが休業を要するほどのものでないことは明らかであり、また、右傷害に起因して控訴人が発熱したことを認めるに足りる的確な証拠もない。)。」と、同四行目の「なお」から同七行目の「側にあり」までを、「なお、前記のとおり、控訴人らと補導員らとの間でもみ合いがあり、その過程において、控訴人には前記認定の受傷の外、頭部打撲の受傷及び着衣の損傷があったことは明らかであるが、前記認定事実によれば、右頭部打撲等の発生原因行為の具体的態様、行為者等が特定されない上に、そもそも、右もみ合いの発端は、控訴人側の言動にあり」とそれぞれ改め、同九行目の「あるから、」の次に「前記認定の違法行為を除く」を加える。

第五  以上の次第で、控訴人の被控訴人に対する本件請求は、損害賠償金七万六五七二円及びこれに対する本件不法行為の日である平成二年七月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。

よって、控訴人の本件控訴は一部その理由があるから、原判決を主文第一項のとおり変更することとし、民訴法九六条、八九条、九二条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田畑豊 裁判官熊谷絢子 裁判官小野洋一)

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